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2019-04-29

「カキフライ理論」に基づく自己紹介(ライター道場課題を転載)

4月から、「仕事につながる!プロライター大阪道場」に通っています。第一線で活躍するライターの皆さんから、直々に、惜しみなく、こんなにまとめてノウハウを教わる機会などそうそうありません。1人で仕事をしていると、モチベーションを保つのはけっこう大変。あと、自分大丈夫?という得体のしれない不安とはいつも隣り合わせです。普段は同業者と会うことも少ない稼業ですが、今回の講座はいろんな方と知り合える上に「自分、まだまだやな」と痛感することしばし。大変いい機会に恵まれています。

そんな素敵な講座の提出課題を、せっかくなのでブログにも残しておきたい(出していい範囲で)所存です。今回の課題は「カキフライ理論に基づく自己紹介」1200字程度。「カキフライ理論」というのは、村上春樹が提唱する自己紹介の書き方に関する理論です。『翻訳夜話』という本に載っていますので気になる方はぜひ。実際に提出した課題をほんのちょっとブログ用に整えております。

「カキフライ理論」に基づく自己紹介~ライターあぶんこの場合~

京都市内にできた新しいお店を雑誌に紹介するという仕事を、もう5年ほど担当している。オープンから3ヶ月以内で、低予算で、繁華街で、電車のアクセスがよく、他府県の人がわざわざ行ってもいいと思える、「京都らしさ」がある店。月2回、欠かすことなくピックアップする条件としては、無茶振りかそうでないかのギリギリのラインじゃないかと思う。

ライターになるまでは、外出中に食事するのを忘れるということも珍しくなかった私が、まさか食べ歩きを仕事にすることになろうとは。

オープン間もない店で食事をすると、予想もしないことにしばしば遭遇する。ちょっとした冒険気分だ。「盛り付けを1つ忘れてました」と、あとで謝られるくらいはまだかわいい。「アルデンテまであと5分は必要じゃないか」と思えるようなパスタを出されたことがあるし、濃茶を頼んだら抹茶の溶け残りのドロドロした塊が大量に口に入ったこともあるし、箸を左右逆にセットされた上に、わざわざ私の隣の空席となっている場所に皿を置かれたこともある。カウンターに置かれた開店祝いの花が、凄まじい臭気を放っていたりもする(フレッシュなユリの花が入ってたのが強烈だった。何を食べたかまったく思い出せない)。

開店直後ゆえの未熟さによるものか、そもそもイケてないお店ができてしまったのかは、判断が難しいところである。

知らない店でカキフライを注文するのは、さらなる冒険を伴う。ほうぼうで語られる「お店で食べたカキにあたってからトラウマになっている」という体験談は、新しいものへの臆病さを私に植え付けた。しかし、カキフライは好物の一つであり、美味しいカキフライを出すお店を知っている人は私の憧れの対象である。

カキフライは難しい食べ物だ。まず第一に、カキは身が大きくて、噛むと海の香りがして、ほんの少し内臓の苦味があって、貝らしい「旨味」としか言いようのない味がしなくてはならない。第二に、言うまでもなくサクサクの揚げたてであること。衣は薄くあってほしいし、噛んだら「サクッじゅわっ」と口の中をアタックしてほしい。第三に、タルタルソースである。とんかつソースでもかまわないが、自家製のタルタルソースならなおよし。何を付けて食べさせるかは、お店のセンスが問われる。

以上の条件を満たさなくてはならず、悪いものあたるとすごく辛い目にあうという食べ物。カキフライを出す店側も、冒険心がなくてはやっていけないのではないか。

新しい店に入る勇気を得てからは、初めて入る店でカキフライにチャレンジすることもできるようになった。1度だけ「これや!」と思うものに出会ったことがある。その店は、移転したばかりとは思えない、縄のれんが渋い佇まいの居酒屋で、大将と大将の娘さんが2人で切り盛りしていた。30代半ばの小娘(当時)が1人で入るのは申し訳ない完成度。なのに、2人は温かく私を迎え入れ、寡黙に、忠実に私の注文を聞いてくれたのだった。あのカキフライの「サクッじゅわっ」がくる絶妙のタイミング、「ゆかり」が入ったタルタルソースのことを思うと、いてもたってもいられない。

頼まれない冒険はなるべく避けたいと切に願う一方、あの瞬間を超えるカキフライを食べてみたいとも思うのである。

あなたの「カキフライ」はなんでしょうか?

今回は半ば無理やりにカキフライを絡めてみたものの、書く対象は必ずしもカキフライでなくともいのだとか。講座で発表された課題は、カキフライだけではなく(むしろカキフライ少数派だった)さまざまな題材が選ばれていて面白いやら、皆さんの上手さに唸るやら。「自分、まだまだやな」と思えるのは嬉しいことです。自己紹介に悩んだら、ぜひカキフライについて思い出して書いてみてください。けっこう楽しいから。

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